2026年度(令和8年度)の最低賃金は、国の審議会が示した目安どおりなら全国加重平均1,176円・引き上げ幅+55円(+4.9%)になる見込みです。7月末の目安提示を受けて、8月に入ってから各都道府県の審議会答申が続々と出ています。この記事では、金額が確認できた県の答申状況と、雇う側の中小企業・個人事業主が今からできる準備——特に9月1日に受付が始まる業務改善助成金——を整理します。
「10月1日から上がる」は、去年47県中1県だけでした
最低賃金の記事はどこも「10月1日から上がります」と書きます。これは去年の実績と違います。厚生労働省が公表した令和7年度の全国一覧で、47都道府県の発効日を数えました。
| 令和7年度の発効時期 | 県数 | 備考 |
|---|---|---|
| 10月1日ちょうど | 1県 | 栃木県のみ |
| 10月中(1日を含む) | 20県 | およそ4割 |
| 11月〜12月 | 21県 | およそ4割 |
| 年を越して2026年1月以降 | 6県 | 最も遅いのは秋田県の令和8年3月31日 |
10月1日ちょうどに発効したのは栃木県の1県だけで、10月中に収まったのも20県です。21県は11月〜12月、6県は年を越しました。最も遅い秋田県は令和8年3月31日——次の年度が始まる前日です。
これは言葉づかいの問題ではありません。発効日は、業務改善助成金の申請期限に直結します。申請期限は「その県の最低賃金の発効日の前日」または11月30日のいずれか早い日で、発効が遅い県ほど期限も後ろにずれます。県ごとの実際の申請期限と、9月1日から使える日数を出しました。自分の県の発効日を知らないまま「10月1日まで」と思い込むと、使えたはずの期間を自分で縮めることになります。
47都道府県 一覧(令和8年度・目安どおりの場合)
2026年8月24日時点で、厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」はまだ令和7年度のままです。令和8年度の確定一覧はまだ存在しません。そこでこの表は、確定している2つの一次資料だけで組み立てています。
- 現行額と昨年の発効日… 厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」(確定値)
- ランクと上げ幅… 中央最低賃金審議会「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日答申)。Aランク6都府県が+54円、Bランク28道府県とCランク13県が+56円
「目安どおりなら」の欄は、この2つを足しただけの試算です。実際の額は各都道府県の地方最低賃金審議会が答申し、労働局長が決定します。今年もすでに宮城県が目安+4円、埼玉県・千葉県・愛知県が各+1円で答申しています。確定額は必ず各労働局の公示でご確認ください。
| 都道府県 | ランク | 現行(令和7年度) | 目安どおりなら | 上げ幅 | 昨年の発効日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京都 | A | 1,226円 | 1,280円 | +54円 | 令和7年10月3日 |
| 神奈川県 | A | 1,225円 | 1,279円 | +54円 | 令和7年10月4日 |
| 大阪府 | A | 1,177円 | 1,231円 | +54円 | 令和7年10月16日 |
| 埼玉県 | A | 1,141円 | 1,195円 | +54円 | 令和7年11月1日 |
| 千葉県 | A | 1,140円 | 1,194円 | +54円 | 令和7年10月3日 |
| 愛知県 | A | 1,140円 | 1,194円 | +54円 | 令和7年10月18日 |
| 京都府 | B | 1,122円 | 1,178円 | +56円 | 令和7年11月21日 |
| 兵庫県 | B | 1,116円 | 1,172円 | +56円 | 令和7年10月4日 |
| 静岡県 | B | 1,097円 | 1,153円 | +56円 | 令和7年11月1日 |
| 三重県 | B | 1,087円 | 1,143円 | +56円 | 令和7年11月21日 |
| 広島県 | B | 1,085円 | 1,141円 | +56円 | 令和7年11月1日 |
| 滋賀県 | B | 1,080円 | 1,136円 | +56円 | 令和7年10月5日 |
| 北海道 | B | 1,075円 | 1,131円 | +56円 | 令和7年10月4日 |
| 茨城県 | B | 1,074円 | 1,130円 | +56円 | 令和7年10月12日 |
| 栃木県 | B | 1,068円 | 1,124円 | +56円 | 令和7年10月1日 |
| 岐阜県 | B | 1,065円 | 1,121円 | +56円 | 令和7年10月18日 |
| 群馬県 | B | 1,063円 | 1,119円 | +56円 | 令和8年3月1日 |
| 富山県 | B | 1,062円 | 1,118円 | +56円 | 令和7年10月12日 |
| 長野県 | B | 1,061円 | 1,117円 | +56円 | 令和7年10月3日 |
| 福岡県 | B | 1,057円 | 1,113円 | +56円 | 令和7年11月16日 |
| 石川県 | B | 1,054円 | 1,110円 | +56円 | 令和7年10月8日 |
| 福井県 | B | 1,053円 | 1,109円 | +56円 | 令和7年10月8日 |
| 山梨県 | B | 1,052円 | 1,108円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 奈良県 | B | 1,051円 | 1,107円 | +56円 | 令和7年11月16日 |
| 新潟県 | B | 1,050円 | 1,106円 | +56円 | 令和7年10月2日 |
| 岡山県 | B | 1,047円 | 1,103円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 徳島県 | B | 1,046円 | 1,102円 | +56円 | 令和8年1月1日 |
| 和歌山県 | B | 1,045円 | 1,101円 | +56円 | 令和7年11月1日 |
| 山口県 | B | 1,043円 | 1,099円 | +56円 | 令和7年10月16日 |
| 宮城県 | B | 1,038円 | 1,094円 | +56円 | 令和7年10月4日 |
| 香川県 | B | 1,036円 | 1,092円 | +56円 | 令和7年10月18日 |
| 大分県 | C | 1,035円 | 1,091円 | +56円 | 令和8年1月1日 |
| 熊本県 | C | 1,034円 | 1,090円 | +56円 | 令和8年1月1日 |
| 福島県 | B | 1,033円 | 1,089円 | +56円 | 令和8年1月1日 |
| 島根県 | B | 1,033円 | 1,089円 | +56円 | 令和7年11月17日 |
| 愛媛県 | B | 1,033円 | 1,089円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 山形県 | C | 1,032円 | 1,088円 | +56円 | 令和7年12月23日 |
| 岩手県 | C | 1,031円 | 1,087円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 秋田県 | C | 1,031円 | 1,087円 | +56円 | 令和8年3月31日 |
| 長崎県 | C | 1,031円 | 1,087円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 鳥取県 | C | 1,030円 | 1,086円 | +56円 | 令和7年10月4日 |
| 佐賀県 | C | 1,030円 | 1,086円 | +56円 | 令和7年11月21日 |
| 青森県 | C | 1,029円 | 1,085円 | +56円 | 令和7年11月21日 |
| 鹿児島県 | C | 1,026円 | 1,082円 | +56円 | 令和7年11月1日 |
| 高知県 | C | 1,023円 | 1,079円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
| 宮崎県 | C | 1,023円 | 1,079円 | +56円 | 令和7年11月16日 |
| 沖縄県 | C | 1,023円 | 1,079円 | +56円 | 令和7年12月1日 |
昨年の発効日が12月以降だった県は色を変えています。今年も同じ順序になるとは限りませんが、審議の進み方には毎年おおむね傾向があります。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。 労働者を1人でも雇っていれば対象で、中小企業の猶予期間はありません(改正労働施策総合推進法)。 方針の策定・周知、相談窓口の設置、対応記録の整備などが求められます。
何をすればいいか、5つの措置に整理しました →今年の特徴:地方の「目安超え」が広がっている
今年目立つのは、国の目安を上回る答申をする県が増えていることです。宮城+4円、新潟+2円、埼玉・千葉・愛知・栃木・岡山が+1円。人材の首都圏流出への危機感から、地方が目安以上の引き上げで賃金差を縮めにいく——昨年から続く構図がさらにはっきりしてきました。
人件費はどのくらい増えるのか(ざっくり試算)
時給が55円上がると、フルタイム1人あたり月にだいたい1万円弱の増加です(55円×8時間×22日=9,680円。社会保険料の事業主負担分を含めるともう少し増えます)。最低賃金近辺の時給でパート10人を雇っていれば、単純計算で年間100万円規模の負担増になります。しかも最低賃金は毎年上がり続けており、来年以降も同じペースが続く前提で考えておくのが現実的です。
対策の本命:業務改善助成金(9月1日受付開始)
この人件費増への国の支援策が業務改善助成金(厚生労働省)です。事業場内の最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資などを行う中小企業に、その費用の一部を助成する制度で、令和8年度は次の内容です。
- 受付開始:2026年9月1日
- 申請期限:その県の最低賃金の発効日の前日、または11月30日の早い方——発効が早い県ほど締切も早く、実質2ヶ月前後しかありません
- 賃金引き上げコースは50円・70円・90円の3コースに再編
- 助成上限は最大600万円、助成率は4/5または3/4(引き上げ前の事業場内最低賃金による)
対象になる「生産性向上の投資」は、機械設備だけでなく、POSや受発注システム、業務ソフトの導入といったITへの投資も含まれます。過去の活用事例では調理機器や券売機からITツールまで幅広く、車両の購入が対象になるかは要件が細かいため労働局への事前確認が確実です。「どうせ賃上げは避けられない。ならば、手作業を減らす投資と一緒にやって費用の大半を助成でまかなう」——これがこの制度の使い方です。
「うちも対象になるのか」を5問で判定できるシートをお配りしています。逆算スケジュール、自社の数字を書き込む欄、そしてよくあるつまずき7つ(発効日「当日」の引上げは対象外、分割での引上げは不可、先に発注すると対象外 など)を収録。印刷して書き込みながら使えます。
無料でダウンロード → メールアドレスのみ・登録不要雇う側の実務:10月の発効までにやる賃金チェック
助成金と並行して、すべての事業者に共通する実務が「自社の賃金が新しい最低賃金を下回らないか」の点検です。手順は次のとおりです。
- ①対象者を洗い出す:時給者だけでなく、日給者・月給者も対象です。最低賃金は正社員・パート・アルバイト・嘱託など雇用形態を問わず適用されます。まず全従業員の賃金一覧を作るところからです
- ②時給に換算して比較する:日給は「日給÷1日の所定労働時間」、月給は「月給÷月平均所定労働時間」で時給換算し、新しい最低賃金と比べます。月給20万円でも、所定労働時間によっては1,100円台になるケースがあり、都市部では月給の若手・新卒も他人事ではなくなっています
- ③比較に入れてよい賃金を確認する:基本給と諸手当が基本ですが、通勤手当・家族手当・精皆勤手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与は比較から除外します。「手当込みならクリアしている」という計算は、除外手当が混ざっていると間違いになります
- ④発効日と契約書類を確認する:発効日は県ごとに異なります(令和7年度は10月1日〜翌年3月31日に分かれました)。10月をまたぐ給与計算期間の扱い、雇用契約書・労働条件通知書・求人票の時給表記の更新も忘れずに
なお、最低賃金を下回る賃金で働かせた場合、差額の支払い義務に加えて罰則の対象にもなります。「知らなかった」「据え置いたままだった」は通用しない領域なので、発効前の点検はカレンダーに入れて確実に実施してください。
よくある誤解3つ
- 「月給制には関係ない」→ 誤り:月給を時給換算して比較します。据え置きのまま最低賃金を下回ると、法律上その差額の支払い義務が生じます
- 「答申が出たからもう確定」→ まだです:答申は審議会の案で、異議申出の手続きを経て労働局長が決定・公示して確定します。金額が動くことは稀ですが、最終確認は労働局の公示で
- 「全国一斉に10月1日から」→ 県ごとに違います:発効日は都道府県ごとに決まります。令和7年度は10月中が20県、11〜12月が21県、年を越したのが6県でした。複数県に事業所がある場合は、県ごとの発効日と金額の管理が必要です
準備は8月中に:やることは3つ
受付開始から締切までが短いので、8月のうちに以下を整理しておくのがおすすめです。
- ① 自社の「事業場内最低賃金」を確認する——いちばん時給が低い人の額が基準になります
- ② 効率化したい業務と、入れたい設備・システムを決める——見積書が申請に必要になるため、ここが実質のボトルネックです
- ③ 最寄りの労働局・社労士に事前相談する——要件の当てはめは個別性が高いので、自己判断せず確認を
②の「何を効率化するか」が決まらない場合は、当ブログの最初に自動化すべき業務の見つけ方とExcel台帳の限界サインが判断の物差しになります。また、10月には最低賃金のほかにもカスハラ対策義務化・インボイス経過措置の縮小など4つの制度変更が同時に動きます。あわせてご確認ください。
賃上げ分をどう吸収するか——3つの選択肢
最後に、増えた人件費の吸収策を整理します。選択肢は大きく3つで、多くの会社はこの組み合わせになります。
- ①価格転嫁:時給+55円×5人×月160時間=月44,000円、年間で約53万円。これを売価に乗せると、月商300万円の店なら約1.5%の値上げに相当します。「なんとなく怖いから据え置く」のではなく、必要な値上げ幅を数字で把握しておくと判断できます。BtoBの下請け取引では、労務費上昇分の価格交渉は国も転嫁を後押しする方針を示しており、最低賃金の改定は交渉の根拠に使える材料です
- ②生産性向上(効率化):同じ売上を少ない工数で回す方向です。本文で触れた業務改善助成金はまさにこの投資への支援で、賃上げとセットなら費用の大半を助成でまかなえます
- ③シフト・業務配分の見直し:ピーク帯に人を寄せ、閑散帯を薄くする基本の見直しです。ただし無理な削減はサービス低下と採用難につながるため、②の効率化とセットで考えるのが現実的です
いずれにしても、最低賃金は来年以降も上がり続ける前提で置くべき数字です。毎年10月に慌てるより、「人件費は年5%前後ずつ上がる」を織り込んだ値付けと業務設計にしておくほうが、経営は楽になります。今年の答申状況は、その前提を数字で確認できる良い機会でもあります。
よくある質問
Q. 2026年度の最低賃金はいつから適用されますか?
県ごとに異なります。令和7年度は10月1日から翌年3月31日まで幅があり、10月中に発効したのは47県中20県でした。正確な発効日は労働局の公示で確定します。
Q. パート・アルバイトにも適用されますか?
適用されます。地域別最低賃金は雇用形態を問わず、その県で働くほぼすべての労働者が対象です。
Q. 業務改善助成金の締切はいつですか?
「その県の最低賃金発効日の前日」か「11月30日」の早い方です。発効日が早い県は締切も早まります。
Q. 答申と確定は何が違いますか?
答申は審議会が示した案で、異議申出手続きを経て労働局長が決定・公示して確定します。本記事の金額は答申段階のものです。
Q. 月給制の社員にも最低賃金は適用されますか?
適用されます。月給÷月平均所定労働時間で時給換算して比較します。通勤手当・家族手当・精皆勤手当・割増賃金・賞与は比較から除外する点に注意してください。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。 労働者を1人でも雇っていれば対象で、中小企業の猶予期間はありません(改正労働施策総合推進法)。 方針の策定・周知、相談窓口の設置、対応記録の整備などが求められます。
何をすればいいか、5つの措置に整理しました →