最低賃金の引き上げに合わせて設備投資をすると、その費用の一部が助成される業務改善助成金。令和8年度は2026年9月1日に受付が始まります。
調べ始めてまず引っかかるのが、「結局うちは対象なのか」という点だと思います。この記事は、厚生労働省の令和8年度の案内資料を実際に読んで、対象要件だけを整理したものです。
ネット上の解説の多くに「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること」という要件が書かれています。しかし厚生労働省の令和8年度の案内資料に、この記載はありません。差額の上限に触れている解説は、過去年度の情報である可能性があります。詳しくは本文で説明します。
令和8年度の対象要件は、3つだけです
厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」には、対象事業者の要件としてこの3点が挙げられています。
- 中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を有する企業=みなし大企業でないこと)
- 事業場内最低賃金が、令和8年度地域別最低賃金未満であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
これだけです。この3つを満たしたうえで、事業場内最低賃金を50円以上引き上げることと、生産性向上に資する設備投資等を行うことがセットで求められます。
「差額50円以内」という要件は、資料に見当たりません
ここが今回いちばんお伝えしたい点です。
「業務改善助成金 対象」で検索すると、多くの記事に「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること」という条件が書かれています。ところが、令和8年度の案内資料を通して読んでも、「差額」「50円以内」といった記述は出てきません。書かれているのは「地域別最低賃金未満であること」だけです。
この違いは小さくありません。仮に「差額50円以内」が要件だとすると、たとえば地域別最低賃金が1,100円の県で、事業場内最低賃金が1,000円の会社は対象外になります。差が100円あるからです。しかし「未満であること」だけなら、この会社は対象になり得ます。
つまり、古い情報を読んで「うちは対象外だ」と判断してしまう可能性があるということです。制度は年度ごとに変わります。要件は必ず、その年度の一次資料で確認してください。
なお、私は社会保険労務士ではありません。ここに書いているのは「公式資料にこう書かれていた」という事実だけです。自社が対象かどうかの最終的な判断は、管轄の労働局にご確認ください。相談は無料です。
この判定を、印刷して書き込めるチェックシートにまとめました(A4・全4ページ)。5問の対象判定、逆算スケジュール、自社の数字を書き込む欄つきです。埋めてから労働局や社労士に相談すれば、一度で話が済みます。
無料でダウンロード → メールアドレスのみ・登録不要「事業場内最低賃金」の数え方に注意
要件の中心にある「事業場内最低賃金」とは、その事業場で最も低い時間給のことです。ただし注意点があります。
資料には、業務改善助成金では「雇入れ後6か月を経過した労働者」の事業場内最低賃金を引き上げる必要があると書かれています。入ったばかりの方の時給で判断するものではない、ということです。ここを取り違えると、対象判定そのものがずれます。
また、引き上げる対象として数えられるのは週の所定労働時間が20時間以上の雇用保険加入者とされています。短時間のパート・アルバイトの方は、人数に算入できない場合があります。
自社が対象か、5つの質問で確かめる
手順にすると、こうなります。順番に見ていってください。
- 従業員のうち、いちばん低い時給はいくらか(雇入れ後6か月を経過した方で見ます)
- それは、今年10月からの新しい地域別最低賃金を下回っているか。下回っていれば要件の1つを満たします
- その時給を50円以上引き上げる予定はあるか。令和8年度のコースは50円・70円・90円の3区分で、50円以上が最低ラインです
- 生産性向上のための設備投資の予定はあるか。賃上げだけでは対象になりません
- 直近で解雇や賃金の引き下げをしていないか。該当すると不交付事由に当たる可能性があります
助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4とされています。時給の低い事業場ほど手厚くなる設計です。
この記事の5つの質問を、印刷して書き込める形にまとめました。逆算スケジュール、自社の数字を書き込む欄、そしてよくあるつまずき7つを収録しています。埋めてから労働局や社労士に相談すれば、一度で話が済みます。
無料でダウンロード → メールアドレスのみ・登録不要締切は、都道府県ごとに違います
ここも誤解が生まれやすいところです。令和8年度の申請期間は、資料にこう書かれています。
令和8年9月1日~ 申請事業所の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日又は同年11月30日のいずれか早い日
全国一律で11月30日まで、ではありません。大事なのは「いずれか早い日」のほうです。発効日が10月なら、11月30日は関係ありません。10月の発効日の前日が締切になります。
発効日が判明している県の、実際の申請期限
2026年8月26日時点で答申が公表され、発効日が判明している県について、9月1日から数えた実際の日数を出しました。いちばん右は、同じ計算を昨年度で行った日数です。
| 都道府県 | 最低賃金の発効日 | 申請期限 | 9/1からの日数 | 昨年度 |
|---|---|---|---|---|
| 三重県 | 10月1日 | 9月30日 | 30日 | 81日 |
| 長野県 | 10月2日 | 10月1日 | 31日 | 32日 |
| 岡山県 | 10月2日 | 10月1日 | 31日 | 91日 |
| 群馬県 | 10月3日 | 10月2日 | 32日 | 91日 |
| 石川県 | 10月3日 | 10月2日 | 32日 | 37日 |
| 滋賀県 | 10月3日 | 10月2日 | 32日 | 34日 |
| 和歌山県 | 10月3日 | 10月2日 | 32日 | 61日 |
| 鳥取県 | 10月3日 | 10月2日 | 32日 | 33日 |
| 福岡県 | 10月4日 | 10月3日 | 33日 | 76日 |
| 山口県 | 10月8日 | 10月7日 | 37日 | 45日 |
| 静岡県 | 10月15日 | 10月14日 | 44日 | 61日 |
「11月30日まで」だと思っていた場合、使えるつもりの日数は91日です。三重県では実際は30日しかなく、61日ぶん長く見積もっていたことになります。
そしてこの11県はすべて、昨年度より使える日数が短くなっています。増えた県はひとつもありません。岡山県は91日から31日へ、群馬県は91日から32日へ。これは最低賃金の発効日そのものが前倒しになったためで、賃上げが早まったぶん、申請できる期間が短くなったという関係です。
まだ答申が出ていない県は、どう当たりをつけるか
2026年8月26日時点で、答申が出ていない県がまだあります。厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」も、この日の時点で令和7年度のままでした。
昨年度、厚生労働省が「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」と発表したのは令和7年9月5日です。受付開始の9月1日より後でした。つまり構造として、受付が始まった時点で自分の締切が確定していない事業者が出ます。
そこで当面の目安として、昨年度に発効が遅かった県を挙げておきます。今年は前倒しの傾向が出ているため、昨年度と同じかそれより早いと想定して構えるのが安全です。
- 和歌山県:11月1日
- 埼玉県:11月1日
- 広島県:11月1日
- 静岡県:11月1日
- 鹿児島県:11月1日
- 奈良県:11月16日
- 宮崎県:11月16日
- 福岡県:11月16日
- 島根県:11月17日
- 三重県:11月21日
- 京都府:11月21日
- 佐賀県:11月21日
- 青森県:11月21日
- 山梨県:12月1日
- 岡山県:12月1日
- 岩手県:12月1日
- 愛媛県:12月1日
- 沖縄県:12月1日
- 長崎県:12月1日
- 高知県:12月1日
- 山形県:12月23日
- 大分県:翌年1月1日
- 徳島県:翌年1月1日
- 熊本県:翌年1月1日
- 福島県:翌年1月1日
- 群馬県:翌年3月1日
- 秋田県:翌年3月31日
確定した発効日は、管轄の労働局のページで確認できます。国のまとめより、県のほうが早く出ます。
なお、締切が決まっていなくても見積書は先に取れます。この助成金でいちばん時間がかかるのがそこなので、9月1日を待つ理由はありません。
賃金の引き上げ方にも、決まりがあります
資料には、引き上げに当たっての注意点が挙げられています。知らないと後で困るものばかりです。
- 発効日の「前日まで」に引き上げを完了する:地域別最低賃金の発効に対応して引き上げる場合、発効日の前日までに完了している必要があります。10月1日発効なら、9月30日までです。当日では間に合いません
- 複数回に分けての引き上げは認められない:「まず30円、あとで20円」という分割はできません
- 就業規則等への記載が必要:引き上げ後の事業場内最低賃金額と同額を、就業規則などに定める必要があります。実際に支払っているだけでは足りません
何に使えるか——パソコンは原則対象外です
助成の対象は「生産性向上に資する設備投資等」です。資料では、機械設備の導入やコンサルティングなどが例として挙げられています。業務システムやソフトウェアの導入も対象になり得ます。
一方で、PC・スマートフォン・タブレットの新規導入は原則として対象外とされています。ただし、原材料費の高騰など外的要因により、申請前6か月間平均の利益率が前年度と比べて3%ポイント以上低下している事業者(物価高騰等要件に該当する特例事業者)については、認められる場合があるとされています。
「パソコンを買い替える費用に使おう」という計画は、まず対象外だとお考えください。
コースの選び方——助成額の大きさで決めない
令和8年度のコースは50円・70円・90円の3区分です。引き上げ幅が大きいほど助成の上限額も上がるため、大きいコースに目が行きがちです。
ただ、ここは慎重に考えたほうがいいところだと思っています。一度上げた賃金は、下げられません。 助成金は設備投資に対して一度きり支払われますが、人件費は毎月、来年も再来年も続きます。
判断の基準は「いくらもらえるか」ではなく、「その水準を来年以降も払い続けられるか」です。設備投資によって本当に生産性が上がる見込みがあるなら大きいコース、確信が持てないなら50円コースから——というのが現実的な考え方だと思います。
もう一点。引き上げる労働者の人数でも上限額が変わります。 ただし人数に数えられるのは、前述のとおり週の所定労働時間が20時間以上の雇用保険加入者です。「うちはパートが多いから人数は稼げるはず」と考えていると、実際に数えられる人数が想定より少なくなることがあります。
先に発注してはいけません
手続きの順番で、最も事故が起きやすい点です。
この制度は、①計画を立てて申請 → ②交付決定 → ③設備投資を実施 → ④結果を報告 → ⑤支給という流れになっています。設備投資を行うのは交付決定を受けた後です。
「良さそうな機械が見つかったから先に発注しておいて、あとで申請しよう」——これは助成の対象になりません。見積もりを取るところまでは先に進めて構いませんが、発注・契約は交付決定を待つ必要があります。
また、事業完了の期限は交付決定を受けた年度の1月31日とされています。9月に申請して交付決定が10月や11月になった場合、そこから設備を導入し、稼働させ、報告書をまとめるまでを1月末までに終える必要があります。納期の長い設備は、この時点で選択肢から外れることがあります。見積もりを取る段階で、納期も一緒に確認しておいてください。
「準備は8月中」と申し上げる理由
受付は9月1日からですが、9月に入ってから考え始めるのでは間に合わない可能性が高いと考えています。理由は、申請の時点で次の4つが決まっている必要があるからです。
- いちばん低い時給がいくらか(雇入れ後6か月経過者で確認)
- いくら引き上げるか(50円・70円・90円のいずれか)
- 何に投資するか
- その見積金額
このうち③と④は、相手のある話です。設備業者やシステム会社に問い合わせて、要件を伝えて、見積もりが返ってくるまでに1〜2週間かかることは珍しくありません。9月1日に申請したいなら、8月中に見積依頼を出しておく必要があるという計算になります。
さらに、締切が早い都道府県では、受付開始から締切まで1ヶ月半程度しかないケースも出てきます。準備に使える時間は、思っているより短いとお考えください。
この記事で扱っていないこと
正直に書いておきます。助成額の上限の一覧は、この記事には載せていません。
上限額は「コース(50円・70円・90円)」「引き上げる労働者数」「事業場の規模」の組み合わせで細かく決まっており、転記の過程で誤りが混ざると、読んだ方が実害を被ります。金額は必ず厚生労働省の資料でご確認ください。最大額は600万円とされていますが、これは条件が揃った場合の上限であり、多くの事業者に当てはまる金額ではありません。
また、申請書類の作成代行は、社会保険労務士の業務です。書類でお困りの場合は、社労士または管轄の労働局にご相談ください。
なお、助成対象経費は「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」で、業務システムの導入やExcel業務の自動化も該当しうる区分です(個別の可否は管轄の労働局にご確認ください)。当社は¥19,800からの小さな自動化を、見積書の発行まで含めてお手伝いしています。
まとめ
令和8年度の業務改善助成金について、押さえるべき点は4つです。
- 対象要件は3つだけ。「差額50円以内」は令和8年度の資料に記載がありません
- 事業場内最低賃金は雇入れ後6か月を経過した労働者で見ます
- 締切は都道府県ごとに違います。発効日の前日か11月30日の早いほう
- 受付は9月1日から。賃上げ計画と設備投資の計画は、それまでに決めておく必要があります
制度の情報は、年度が変わると要件も変わります。読んだ記事が何年度のものかを必ず確かめてください。この記事も、来年には古くなります。