2026年10月1日は、中小企業にとって節目の日になります。カスタマーハラスメント対策の義務化、インボイス経過措置の控除率引き下げ、最低賃金の改定(発効見込み)という3つの制度変更が、この日に集中しているためです。どれも「知らなかった」では済まず、しかも準備に使えるのは実質8月と9月だけ。この記事では、3つそれぞれの変更点と必要な準備、そして限られた2か月の優先順位を整理します。
一覧:10月1日に何が変わるか
- カスハラ対策の義務化:全事業主が対象(労働者1人でも・中小の猶予なし)。方針・相談窓口・対応記録などの措置が必要に
- インボイス経過措置:免税事業者等からの仕入れの控除割合が80% → 70%に低下。控除の上限も「年10億円超」から「1億円超」へ縮小
- 最低賃金の発効(見込み):中央審議会の目安は+55円・全国加重平均1,176円(2026年7月28日答申)。8月に各県で確定し、10月頃に順次発効
① カスハラ対策の義務化:記録の仕組みが核心
改正労働施策総合推進法により、カスハラから従業員を守る措置がすべての事業主の義務になります。求められるのは、方針の明確化と周知、相談体制の整備、相談への適切な対応と記録、被害者への配慮、再発防止の5つ。刑事罰はありませんが、行政の助言・指導・勧告の対象となり、実務上は「対応した証拠を残せるか」がすべてです。
準備の中身と記録様式の作り方は、カスハラ義務化の詳細解説記事にまとめました。最短コースなら「方針・窓口・記録様式」の3点で、数時間あれば土台が作れます。
② インボイス経過措置:80%→70%と「日付またぎ」
免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの仕入れについて、仕入税額相当の80%を控除できる経過措置が9月30日で終わり、10月1日以降は70%になります。以降も50%(2028年10月〜)、30%と段階的に縮み、最終的にゼロになる前提のスケジュールです。
実務上の注意は2つあります。ひとつは日付またぎの判定。9月末納品と10月初納品が混在する請求書では、仕入日ベースで80%と70%が分かれます。月次でまとめて処理している場合、10月分の処理ルールを経理担当と事前に確認しておいてください。もうひとつは、控除の上限が「1事業者あたり年10億円超」から「1億円超」に縮小されること。該当規模の事業者は影響額の試算が必要です。
また、免税事業者との取引条件を見直す場合は、一方的な価格引き下げが下請法・独占禁止法上の問題になり得る点にも注意が必要です。
③ 最低賃金の改定:発効日までに「全員の時給確認」
2026年7月28日、中央最低賃金審議会が示した目安は55円の引き上げ(Aランク54円・B/Cランク56円)。目安どおりなら全国加重平均は1,121円→1,176円になります。この時点では目安(答申)であり、8月に各都道府県の審議会が確定額を決め、10月頃に都道府県ごとに順次発効します(発効日は県によって異なります)。
事業主がやるべきことはシンプルですが、量があります。
- 時給者全員の現在時給を洗い出す:新しい最低賃金を下回った状態で発効日を迎えると、その時点で法令違反です
- 月給者も時給換算で確認する:月給÷月平均所定労働時間で時給換算し、最低賃金と比較します。見落としやすいのはこちらです
- 雇用契約書・賃金台帳・求人票の更新:発効日に合わせて改定します
なお、賃上げ原資の支援策として業務改善助成金(事業場内最低賃金の引き上げ+設備投資に対する助成)の令和8年度受付が9月1日に開始されます(厚生労働省公表)。要件・コースの詳細は厚労省の一次情報をご確認ください。
8月・9月の優先順位
3つを同時に完璧にやるのは、中小企業の体制では現実的でありません。おすすめの順番はこうです。
- 最優先:最低賃金(8月下旬〜9月)——発効日に間に合わないと違反になり、金額の計算・原資の判断・書類の改定と作業量も多いため
- 次:カスハラ(9月中)——方針・窓口・記録の3点なら作業自体は短時間。10月1日に「ある」状態にする
- 最後:インボイス(9月末)——経理の処理ルール確認が中心。切替日の認識合わせだけでも効果があります
共通する本質:制度対応は「記録が残る仕組み」で軽くなる
3つの制度に共通するのは、対応そのものより「対応したことを示す書類・記録」が発生する点です。カスハラは周知と対応の記録、最低賃金は賃金台帳と契約書の改定、インボイスは仕入の区分管理。紙や口頭で始めると、必ずどこかで「やったのに証明できない」が起きます。最初から、入力したら日付付きで残る形——スプレッドシートでも十分です——にしておくことが、秋を軽く乗り切る一番の近道です。
まとめ
2026年10月1日、カスハラ義務化・インボイス70%・最低賃金改定の3つが同時に動きます。10月1日は締切ではなくスタートで、準備できるのは8月と9月だけ。優先順位は「最低賃金→カスハラ→インボイス」。そして3つとも、核心は記録が残る仕組みづくりです。夏のうちに、着手だけでもしておきましょう。
※本記事は2026年7月31日時点の公表情報にもとづきます。最低賃金は答申(目安)段階であり、確定額・発効日は各都道府県労働局の公示が正です。制度の詳細は厚生労働省・国税庁の一次情報をご確認ください。本記事は一般的な情報整理であり、税務・労務の個別判断は専門家にご相談ください。