2026年8月26日、出入国在留管理庁と厚生労働省が、技能実習計画の認定取消しを公表しました。8者・44件です。
取消しの理由は、事業者ごとに別紙で公表されています。8件すべて読んでみました。半分が「記録」に関わる理由でした。
この記事では、社名や個人名は扱いません。特定の事業者を責めることに意味はなく、どういう理由で取り消されているのかという並び方のほうが、読む側にとって役に立つと考えるからです。
理由の内訳
| 取消しの理由 | 該当 | 補足 |
|---|---|---|
| 計画どおりに技能実習を行わせていなかった | 4者 | うち3者は「必須業務が計画全体の2分の1未満」も併記。1者は「計画どおりに賃金を支払っていなかった」も併記 |
| 労働安全衛生法違反(罰金刑が確定) | 2者 | 出入国または労働に関する法令に関し、不正または著しく不当な行為をしたと判断された |
| 役員が刑法違反で拘禁刑以上の刑 | 1者 | 役員個人の刑が、法人の認定取消につながっている |
| 外国人技能実習機構の職員に虚偽の帳簿書類を提示 | 1者 | この1者だけで11件。8者のうち最多 |
技能実習法第16条第1項が根拠です。号によって取消事由が分かれています。
今回の8者は、合わせて44件の計画を失いました。1者あたり平均5.5件です。認定は計画ごとに出ているので、取り消されればその計画で受け入れていた実習は続けられません。1つの事案が、事業所の受け入れ全体に及びます。
いちばん多いのは「計画どおりにやっていなかった」
8者のうち4者が、これに当たります。
技能実習は、あらかじめ認定を受けた計画に沿って行うものです。その計画から実際の作業がずれていた、と判断されました。うち3者には「必須業務に技能実習計画全体の2分の1以上の時間従事させていない」という理由も併記されています。
ここで考えたいのは、この判断はどうやって行われたのかということです。
実際に何の作業を、何時間させていたか。それを示すものは記録しかありません。作業日報、日々の実習記録、勤怠。これらが計画と突き合わせられて、ずれが認定されています。
逆に言えば、記録が無ければ「計画どおりにやっていた」と主張することもできません。やっていたかどうかではなく、示せるかどうかで決まります。
なお今回の8者の所在地は、愛媛・岐阜・熊本・滋賀・大阪と広く分かれています。特定の地域に偏った話ではありません。
最も多くの計画を失ったのは、帳簿に嘘を書いた1者でした
8者のうち、いちばん多くの計画を取り消されたのは11件です。理由はこう書かれています。
外国人技能実習機構の職員に対し、虚偽の帳簿書類を提示したことから、技能実習法第16条第1項第5号に規定する認定の取消事由に該当するため。
不備があったのではなく、嘘を書いたことが理由です。そしてそれが、8者のうち最も重い結果になっています。
この並びは、記録というものの性質をよく表していると思います。記録が無いのは不利ですが、間違った記録を出すのは、無いことより重く扱われます。
調査が入ったときに慌てて体裁を整える、という発想がいちばん危ないということでもあります。
賃金の不払いも、理由に並んでいました
4者のうち1者には、「認定計画に従って賃金を支払っていなかった」という理由も併記されています。
賃金不払については、この5日前の8月21日に厚生労働省が別の統計を公表しています。令和7年に労働基準監督署が扱った賃金不払の事案は22,605件・173,016人・128億5,782万円でした。件数は前年より増えています。
是正事例として公表されているものを読むと、悪意があるようには見えないものが並びます。ICカードで労働時間を管理していたのに、始業直前と終業直後の15分を一律に切り捨てていた製造業。固定残業代を払っていることを理由に、20時間を超えた分を確認していなかった卸売業。
どちらも記録はありました。その後の処理で時間が消えていただけです。
労働安全衛生法違反でも、2者が取り消されています
8者のうち2者は、労働安全衛生法違反で罰金刑が確定したことを理由に取り消されました。「出入国または労働に関する法令に関し、不正または著しく不当な行為をした」と判断されています。
技能実習法の違反ではなく、別の法律での有罰が、技能実習の認定取消につながっているという構造です。役員が刑法違反で拘禁刑以上の刑を受けた1者も同じ形です。
制度は独立していません。どこか1つで処分を受けると、他の制度上の資格も連鎖して失われます。
この制度は2027年4月に無くなります
もう一つ、背景として押さえておきたいことがあります。技能実習制度は廃止され、2027年4月1日から「育成就労制度」に移行します。改正入管法は2024年6月に公布されています。
ここで注意が要るのは、移行は自動ではないという点です。既存の監理団体は「監理支援機関」として、あらためて許可を申請する必要があります。外国人技能実習機構は2026年4月15日から事前の申請を受け付けており、審査の混雑を避けるための推奨期限として2026年9月30日が案内されています。
今日から数えて、1か月です。
制度が変わる前の処分だから軽い、ということはありません。むしろ移行の審査を控えた時期に処分歴が付くことの意味は、これまでより重くなり得ます。
「後から作れない記録」にするための3つの条件
ここまで見てきたことを、実務の形に落とします。記録が役に立つかどうかは、次の3つで決まると考えています。
- その場で残ること
後でまとめて書く運用にすると、記憶で書くことになります。記憶で書いた記録は、突き合わせたときに実態と合いません。入力の手間を減らして、その日のうちに終わる形にするしかありません - 日時が自動で入ること
手入力の日付は、後から書いたものと区別がつきません。入力した瞬間に日時が自動で付き、あとから書き換えると履歴が残る。これが「いつ書いたか」を担保します - 集計できる形であること
今回の処分理由にあった「必須業務が計画全体の2分の1未満」は、集計しないと出ない数字です。文章で書き溜めた記録からは出てきません。項目に分けて、後から数えられる形で持つ必要があります
3つ目が抜けている事業所が多いと思います。記録はあるが、集計できない。この状態だと、調査で数字を求められたときに、その場で作ることになります。
逆に言えば、集計できる形で持っていれば、ずれに自分で先に気づけます。指摘される前に直せるかどうかの差は、そこで生まれます。
これは技能実習だけの話ではありません
技能実習の帳簿には専用の様式があり、この記事で扱える範囲を超えます。ただ理由の並び方は、業種も制度も問わず同じことを示していると思います。
- やっていたかどうかではなく、示せるかどうかで決まる
- 記録が無いことより、間違った記録のほうが重く扱われる
- 調査のときに整えるのでは間に合わない(過去にさかのぼって作れないから)
同じ構造の義務が、この秋にもう1つ増えます。
10月1日から、カスハラ対策で「記録」が要件になります
2026年10月1日、改正労働施策総合推進法によりカスタマーハラスメント対策が全事業主の義務になります。労働者を1人でも雇っていれば対象で、中小企業の猶予期間はありません。
求められる措置には、方針の明確化と周知、相談体制の整備、そして事案が起きたときに適切に対応することが含まれます。適切に対応したことを後から示す手段は、やはり記録です。
カスハラの定義は3つの要素で決まります。①顧客等の言動であること、②業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること、③それにより労働者の就業環境が害されること。
3つ目に注目してください。就業環境が害されたことが要件に入っています。つまり記録に「体調を崩してシフトを交代した」「翌日の出勤前に不調を訴えた」といった事実が残っていなければ、定義の3つ目を裏づけられません。
今回の技能実習の処分と同じで、後から作れないものが要件になっているという点は共通しています。
まとめ
- 2026年8月26日、技能実習計画の認定取消しが8者・44件公表された
- 最多の理由は「計画どおりに技能実習を行わせていなかった」で4者。うち3者は必須業務が計画の半分未満、1者は賃金の不払いも併記
- 最も多くの計画(11件)を失った1者の理由は「虚偽の帳簿書類を提示した」こと
- 労働安全衛生法違反で2者、役員の刑法違反で1者。他の法律での処分が連鎖している
- 記録は「やったこと」ではなく「示せること」を担保するもの。10月1日のカスハラ対策義務化も同じ構造
※本記事は2026年8月26日時点の公表情報にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。特定の事業者を論評する意図はなく、社名・個人名は記載していません。個別の判断は専門家にご相談ください。